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京都地方裁判所 昭和42年(ワ)904号 判決

原告

上野正

被告

松永淳

ほか一名

主文

(1)  被告らは各自原告に対し金二〇七万六三四一円ならびに内金一七七万六三四一円に対する昭和四五年九月二六日以降、および内金三〇万円に対する同四六年六月二二日以降各支払済み迄年五分の割合による金員の支払をせよ。

(2)  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

(3)  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の負担とし、その二を被告らの負担とする。

(4)  この判決は原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

被告らは各自原告に対し金七九六万六一一円及び内金三七六万五二六七円に対する昭和四五年九月二六日から、内金三九三万五三四四円に対する昭和四六年四月一日から、残金二六万円に対する第一審判決言渡の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

(被告ら)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二、請求の原因

一、(事故の発生)

原告は次の交通事故(以下「本件事故」という)によつて傷害を受けた。

(1)  発生日時 昭和四一年九月一日午後四時三〇分頃

(2)  発生地 高槻市京口町九番地先交差点

(3)  加害車 被告松永所有の自動三輪貨物車(大六え三六三四号以下「加害車」という)

右運転者 被告多田

(4)  被害車 原告運転の普通乗用車

(5)  事故の態様

原告が被害車を運転し前記交差点において赤信号で一旦停車中、加害車を運転し後続していた被告多田が前記停車中の被害車に追突した。

(6)  傷害の部位・程度

原告は本件事故の衝撃により後遺症としてめまい・嘔吐・頭痛・腰痛・しびれ等自律神経にも著明なる異常を残す頸椎鞭打症の傷害をうけた。

二、(責任原因)

(一)  被告多田

被告多田は前記路上を被害車の後方約二〇メートルを追従し、時速約三〇キロメートルで大阪方面へ西進中右被害車が信号待ちのため停車したのを認めたのであるが、間もなく東西進めの信号が標示されるものと軽信し、前同一速度で漫然続進した過失により、自車前部を同車に追突させるに至つたものであるから、被告多田は右過失により原告に前記傷害を負わせたことによる損害賠償の責任がある。

(二)  被告松永

(1) 被告松永は運送を業とするものであり加害車の保有者である。

(2) 被告多田は被告松永の従業員であつて、業務中に本件事故を惹起したものである。

(3) 被告松永は第一次的に自動車損害賠償保障法第三条により、第二次的に民法上使用者として被告多田の行為により原告に加えた損害の賠償責任がある。

三、(損害)

損害額合計 金八五〇万二六一一円

(一)  入院費等

(1) 入院中の必要費 金一四万二〇〇〇円

イ 入院期間 合計三五五日間

加茂川病院 自昭和四一年一一月四日至同年一二月一二日(三六日間)

大和病院 自昭和四一年一二月一六日至同四二年四月三〇日(一三五日間)、自昭和四三年七月二五日至同年七月三一日(七日間)、自昭和四四年一月二九日至同年七月三一日(一八四日間)

ロ 金額 合計一四万二〇〇〇円

入院必要費については、栄養補食費(牛乳、果実等)、衣料代、新聞代等一日につき金四〇〇円が相当である。

(2) 薬代 金五四〇〇円

マツサージ併用薬プレドミンA軟膏六本の費用

(3) 医師に対する謝礼金六三一〇円

(4) 交通費 金三万九一六〇円

イ 原告分 大和病院通院のため 自昭和四二年五月一日至同年七月二四日のタクシー電車費金四二六五円、自同年七月二五日至同四三年一月一二日金五二三〇円、自同年一月一三日至同年一二月一三日金一万五〇三〇円、自同年一二月一四日至同四五年一一月一一日(但し、入院中を除く)金一万二二六〇円

ロ 原告の妻の加茂川病院、大和病院付添等の交通費として、自昭和四一年一一月四日至同四二年四月三〇日金二三七五円。

(5) 諸雑費 金四九二五円

診断書代金二七〇〇円、コルセツト修理費金一五〇〇円、初診料金一〇〇円、ノート金一一七円、電話金五〇八円

(6) 入院中の付添費用 金一八万八八五〇円

イ 付添婦 上野マサエ(原告の妻)

加茂川病院 自昭和四一年一一月四日至同月九日(六日間)、

大和病院 自同年一二月一六日至同月三〇日(一五日間)、自昭和四四年一月二九日至同年二月三日(六日間)、自同月七日至同年七月一三日(一五七日間)

一日 金一〇〇〇円の割合で合計金一八万四〇〇〇円

ロ 付添婦 専門付添婦 山口公子

大和病院 自昭和四四年二月四日至同月六日(三日間)

合計 金四八五〇円

(二)(1)  休業補償金 一〇二万四四七八円

原告は平安陸送有限会社に勤務し、自動車運転業務に従事していたが、本件事故当日(昭和四一年九月一日)より現在まで本件受傷により休業を余儀なくされている。

この間毎月労災保険より平均給料の六〇%の支払を受けたので残四〇%を次の割合で請求する。

イ 自昭和四二年五月二一日至同四三年九月三〇日 金二八万〇八四六円

平均給料月額金四万〇五〇〇円(日額金一三五〇円)その四〇%は月額金一万六二〇〇円

ロ 自昭和四三年一〇月一日至同四五年三月三一日 金三四万九九二〇円

ベースアツプにより月額金四万八六〇〇円(日額一六二〇円)その四〇%は月額金一万九四四〇円

ハ 自昭和四五年四月一日至同四六年三月三一日(現在の治療状況、裁判の審理状況から右期間を休業期間とみるが相当) 金二八万七七一二円

ベースアツプにより月額金五万九九四〇円(日額金一九九八円)その四〇%は月額金二万三九七六円

(2)  一時金損失分 金一〇万六〇〇〇円

昭和四一年末金一万八〇〇〇円、同四二年夏期金二万円、同年年末金二万円、同四三年夏期金二万三〇〇〇円、同年年末金二万五〇〇〇円

(三)  労働能力低下による逸失利益金三七九万一四八八円、現在の自覚的症状は視力障害(左眼併発白内障、慢性虹彩炎、右眼老人性黄斑部変性症)平衡異常(右大腿委縮、右下肢膝蓋腱反射及びアキレス腱反射低下、右下肢筋力低下、右下肢触覚振動覚低下、両下肢痛覚低下)頭頂部痛、背腰痛、下肢痛、排尿困難、情緒不安定等があり、これが後遺症として残ることは確実であり、将来再び自動車運転手としては勿論のこと通常の作業に従事することは不可能である。

専門医の意見を参考にして原告の労働能力を判断するに、喪失率は八〇%とみるが相当である。

原告は大正三年三月二六日生であるから昭和四六年四月一日より七、九年間(事故前の原告の健康状態からみて満六五才までは自動車運転手として稼動可能であつた)を就労可能年数、法定利率年五分による単利年金現価総額表を用いて算出すると金三七九万一四八八円の損害を蒙つたことになる。

(四)  慰藉料 金三〇〇万円

原告の受傷の程度、治療状況、後遺症の内容及び労働能力低下については前述参照されたい。

原告は本件受傷による外傷性神経症のため、昭和四四年一月二九日発作的に服毒し、大和病院の医師、原告の妻等の必死の努力の結果一命をとりとめた。右服毒は本件交通事故による受傷に起因していることは医学的にも明かであり、労災保険でも因果関係ありとの判断で、その適用を現在まで継続してきている。

原告が受け将来に亘つて受ける精神的、肉体的苦痛は死にまさるものがある。一命をとりとめたとはいえ原告の将来は灰色である。この痛ましい原告に対する慰藉料として金三〇〇万円は低くあつても高すぎることはない。

(五)  損害の填補

被告松永は原告に対し損害の内払として計金五四万二〇〇〇円を支払つたので前記損害よりこれを控除する。

(六)  弁護士費用金三〇万円

着手金四万円は支払済、報酬金二六万円は第一審勝訴判決言渡の後直ちに支払う契約である。

四、(結論)

よつて被告らは各自原告に対し請求の趣旨記載の金員(但し、金三九三万五三四四円は、自昭和四五年一〇月至同四六年三月の休業補償費及び労働能力低下による逸失利益の合計、金二六万円は弁護士費用のうちの報酬)及び民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三、被告らの答弁及び主張並びに抗弁

一、請求の原因に対する答弁

(一)  第一項中原告の傷害の部位程度を否認しその余は認める。

(二)  第二項中(一)の減速徐行しなかつたとの点漫然続進したとの点は否認し、その余は認める。第二項中(二)は認める。

(三)  第三項中(四)のうち原告が自殺をはかつたこと及び(五)の事実のみを認めその余の損害についてはすべて否認する。

二、反論

(一)  被告多田は原告主張の如く漫然進行せず、本件事故直前は時速二〇キロメートル位に減速し徐行し、十分注意していたもので、本件事故前は左右信号は点滅して幾何もなく青色の直進信号の態勢にあつたのである。

(二)  被告松永は被告多田に対し本件事故当日も其の以前も始終十分被告多田の運転及び一切の運転事業の業務行為に対し注意監督し、被告松永には何らの過失はなかつた。

(三)  原告は本件昭和四一年九月一日に受傷したにも拘ず、同年一二月一六日迄入院もせず治療し右三ケ月半も後になつて大和病院に入院した。而も原告は昭和三七年頃梅毒症に罹り又本件事故以前にも自動車事故にてむちうち症を罹つたことがあり本件事故当時は未だ何れも完治していなかつた。本件事故による傷害は当初通院一日で治癒の見込みであり入院の必要もなく甚だ軽少であつたもので右の如き場合の入院治療費等は本件事故と因果関係がないものである。従つて少くとも右一二月一六日以後の入院治療費等は被告等に於て支払責任ないものである。

(四)  仮に被告に賠償義務があるとしても昭和四四年一月二九日自殺を図りブロバリンを多量に飲んだりしたのは原告主張のように本件事故のみではなく、前示既往の梅毒症及びむちうち症等に原由したもので(又、右自殺行為は故意により被告等に面倒を掛けんと企て及んだものとも思料されるのであり)少くとも其の後の治療費及び眼の医療費等は本件事故と因果関係は無く被告等に於て賠償すべき責任はない。

三、抗弁

被告松永は原告に対し別表の如く治療費、入院費、休業補償費等合計金一四二万三六五六円を支払つた。

仮に被告等に支払義務があるとすれば右金額をもつて損益相殺する。

第四、被告らの抗弁および主張に対する原告の主張

一、抗弁に対する認否・主張

(一)  別表記載の支払金額は認める。

但し別表(1)記載の金員は本件訴を提起する以前に原告が被告に対し請求した損害金の支払であり解決済のものである。

(二)  別表(2)記載の支払については損害額より右金員を控除して請求している。

二、原告の梅毒反応は、昭和四一年一二月陽性、同四三年一〇月陰性、同四五年一月、二月陽性で、いつから潜伏したかは全く不明である。この梅毒反応と本件受傷による症状の因果関係を検討するに、原告の反応は未だ潜伏期のもので、しかも昭和四三年には陰性反応を示している如くその程度は軽く、梅毒による症状は全くないのである。

原告が本件事故前においては本件受傷による症状が全くなかつたこと、本件受傷時より外傷性頸部症候群特有の症状が現われていること等を判断すれば梅毒反応が陽性としても、本件受傷以後の症状は右梅毒と何らの因果関係はない。

第五、証拠〔略〕

理由

一、本件事故の発生及び被告らの責任

原告主張の日時場所において被告多田運転の加害車が原告運転の被害車に追突したこと、被告松永が加害車の保有者であることは当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によれば被告多田は加害車を運転し、原告運転の被害車の後方約二〇メートルを追従し、時速約三〇キロメートルで西進中、先行被害車が信号待ちのため停車したのを認めたので約二〇キロに減速したが、左右の信号が明滅していたので引きつづき発進するものと考へ、停止措置をとらず、多少速度を落し乍ら前進したが約六メートル手前に差かかつて尚も被害車が発進しないので、あわててブレーキを踏んだが間に合わず、自車前部を被害車後部に追突せしめたものである事及び加害車にはブレーキ、ハンドル等異常がなかつた事が認められる。

右の事実によれば被告多田が前車の動向に対する注意を怠り、減速、徐行、停止等追突の危険を避けるための適切な措置を怠つた過失が認められる。

依つて被告多田は民法第七〇九条により、被告松永は自動車損害賠償法第三条によつて原告が蒙つた後記損害を賠償する義務がある。

二、原告の受傷及び治療経過

原告の傷害の部位、程度につき検討するに、〔証拠略〕によれば原告は本件事故により頸椎鞭打ち損傷、腰椎捻挫の傷害を受けたことが認められる。次に治療経過を認定するに、〔証拠略〕を総合すると、事故発生後昭和四五年二月頃までの原告の入院、通院先及びその始期、終期は左の表の通りである。

〈省略〉

被告らは原告が当初通院するのみで本件事故後三カ月間を経過した昭和四一年一一月四日から入院したこと及び梅毒症を持つて居り且、本件事故以前にも自動車事故でむちうち症にかかつたことがあり本件事故当時全治していなかつたことをもつて本件事故と右同日以後の治療は相当因果関係なしと主張するが、被告等の全立証を検討しても右主張にそう証拠はない。

三、問題は昭和四四年一月二九日原告が自殺を図つたこと及びそれ以後の症状が本件事故と相当因果関係を有するか否かである。

まず自殺を図つた当時の情況をみるに〔証拠略〕を総合すると、原告は後頭部の痛みに悩み昭和四三年七月二五日両側大後部神経切除の手術をしたこと、その後の同年一一月一九日現在頭痛四肢のしびれ、耳鳴、肩凝り、めまい等の症状があり、手術後かえつてはつきりいろいろな神経症状がでてきた面もあること、原告は神経的におかしい面もでてきておこりつぽくなつたこと、自殺を図つた当時本件事故の調停の交渉で興奮したこと、ブロバリンを飲んだ前後のことはよく原告本人も覚えていないことが認められる。〔証拠略〕によれば、原告は二年余にわたる頭部外傷並びに頸部捻挫による外傷性神経症のため発作的に服毒したこと、従つて医学的には本件事故と自殺との間に因果関係の存することが認められる。

右認定の事実及び本件事故による治療経過を勘案するに、原告の自殺未遂と本件事故の間には、本件事故がなければ原告が自殺を図らなかつたであろうといういわゆる条件関係があつたことは推認できる。しかしながら交通事故により受けた肉体的苦痛ないし精神的苦痛により被害者が自殺を図るような心理的反応を起すことは通常生ずべき結果ではなく、蓋然性がないことは経験則上明かである。即ち同種病状で本件より遙かに重症の者或いは同程度の者が原告の如く自殺を図るとは限らず、本件において原告が病苦につき、深刻に悩んだとしてもそれは本病特有の心因性神経作用による他、原告自身のおいたち、性向、性格、家庭状況等複雑な要素のからみあいによるものである。そして本件において原告が自殺に至る特別事情の予見が被告らに可能であつたことを認めるに足る証拠もないから、本件事故と原告の自殺未遂の間には、いわゆる相当因果関係はない。

ところで本件交通事故と原告の自殺未遂の間に相当因果関係は認められなくとも条件関係は存在するのであるから、被告らは本件交通事故による全損害即ち自殺未遂により拡大した部分を除き本来存していた損害部分は賠償すべきが相当である。

〔証拠略〕によれば原告が自殺を図つた後入院したのはブロバリンを服毒したことによる急性薬物中毒症によること、それにより肺炎尿毒症、褥瘡を起こしたことが認められ、以上によれば原告が自殺を図つた以後の入院は本件事故と相当因果関係は認められない。

〔証拠略〕によれば自殺を図つた後の昭和四四年一二月二日現在の原告の傷病名は、頸椎鞭打ち損傷、右大腿筋萎縮、右膝関節炎、左眼急性虹彩毛様体炎、左眼併発白内障であること、右のうち、頸椎鞭打ち損傷以外は自殺未遂以後起つたものであること、右大腿筋萎縮と右膝関節炎はブロバリンの服毒により生じたことが認定できる。従つて結局本件事故による原告の傷病は頸椎鞭打ち損傷のみとみるのが相当である。

さて〔証拠略〕を総合すると、原告は昭和四三年八月に一応の小康をえて入院から通院に切りかえたこと、昭和四三年一一月一九日現在頭痛、四肢のしびれ、耳鳴り、肩凝り、めまい等の症状があつたこと、自殺を図つた後の昭和四四年一二月二日現在本件事故による頸椎鞭打ち損傷として同じような症状が存在することが認められる。従つて右のような症状がいつの時点で固定したかは明かではないが、とくに悪化または治癒に向つたと認むべき証拠がないので、自殺を図つた昭和四四年一月二九日当時原告の病状はほぼ右の如き症状であつたと推認できる。

そこで上述の経緯とその症状についての前記波多間証言とを総合して原告の稼動能力喪失率は三〇%継続期間五年と認めるのが相当である。

四、損害

(一)  入院費等

(1)  入院中の必要費

前記認定によれば、本件と相当因果関係を有する入院期間は、加茂川病院自昭和四一年一一月四日至同年一二月三日、大和病院自昭和四一年一二月一六日至四二年四月三〇日、同自昭和四三年七月二五日至同年七月三一日の合計一七八日間であり、前記認定の傷害部位、程度、入院期間に鑑みるに入院一日あたり三〇〇円が相当と認められる。

よつて被告らにおいて賠償すべき入院中の必要費は五万三四〇〇円である。

(2)  薬代

〔証拠略〕によれば原告が医師の指示によりマツサージ薬を使用し合計五四〇〇円を要したことが認められる。

(3)  医師に対する謝礼

〔証拠略〕によれば医師に対する謝礼として六三一〇円を支出した事が認められる。被告らは医師に対する謝礼は本件事故と因果関係を欠き失当である旨主張するが、入院患者が世話になつた医師に対し謝意を表し金品を送ることは通常行なわれる儀礼的風習であり、それが患者の症状等に照し不相当な為のでない限り入院の原因たる事故により生じた損害とみるべく本件における謝礼は相当なものと認められる。

(4)  交通費

原告が大和病院に通院したのは前記認定の如く昭和四五年二月九日までであり昭和四二年五月一日より昭和四五年二月九日迄の通院日数は三八九日である。本件の場合受傷の状況などでタクシーに乗るだけの合理性が認められる特別事情の証明がないので市電交通費として一日少なくとも五〇円を要するから計一万九四五〇円を認めうるのを相当とする。

後記(六)認定の如く原告の妻が請求の期間中付添をしなければならない特段の事情のない以上付添のため要した交通費は本件事故による損害とは認められない。

(5)  諸雑費

〔証拠略〕によれば計五六五〇円を支出したことが認められる。

(6)  入院中の付添費用

原告に対する付添が医師により必要と認められるのは〔証拠略〕により昭和四四年一月二九日より五月五日迄であるが、右期間は原告の自殺未遂により入院した期間であり本件事故とは相当因果関係がない。それ以外の期間に付添が必要であつたという特段の事情のない限り、本件事故による損害と認めうることはできない。

(二)  休業補償等

〔証拠略〕を総合すると、原告は本件事故当時平安陸送有限会社に自動車運転手として勤務していたが本件事故当日より現在迄本件事故により休業していること、この間労災保険より平均給料の六〇%の支払を受けていること、昭和四二年五月二一日より同四六年三月三一日迄の各平均給料及びその四〇%にあたる金員が原告の主張通りであること、以上の事実が認定でき、右認定を覆えすに足る証拠はない。ところで右休業期間のうち本件事故と相当因果関係を有するのは昭和四四年一月二八日迄であることは前記認定の通りであるから計算の便宜上一月末日迄とする、本件事故による休業損害は合計三五万八六〇六円となる。又、〔証拠略〕によると、昭和四一年度から同四二年度の原告に支払われるべき一時金は合計一〇万六〇〇〇円と認定できる。

(三)  労働能力低下による逸失利益

原告の前記認定の労働能力喪失による逸失利益を症状固定の時点において一時に支払をうけるものとして五年間の年五分の単利に基づく中間利息を控除したうえ算定(小数点五位以下切捨)すると七六万三五二五円となる。

(48,600×12×0.3×4.364=763,525)

(四)  慰藉料

原告が本件事故により前記の傷害をうけ長期間入院通院を余儀なくされ、いまだ前記の後遺症を有し復職するに至つていないこと、しかし前記自殺以後の入院期間及び後遺症中自殺を図つたことにより生じたものは本件事故と相当因果関係のないこと本件事故発生につき原告には何らの過失もないことはいずれも認定した通りである。以上を勘案し、自殺を図るほどの原告の精神的苦痛は前記認定の通り主観的一面が強いとはいえ非常に大きいものであつたことを考慮すれば慰藉料は金一〇〇万円が相当である。

(五)  損害の填補

被告松永が原告に対し別表(1)記載の如く治療費、休業補償として計二二万七四二七円支払つたことは当事者間に争いがないが、右金員は本件請求外の損害に対する支払である。

被告松永が原告に対し昭和四三年六月より同四五年三月までに休業補償として計五四万二〇〇〇円支払つたとの原告主張については〔証拠略〕より、争いのないものと看做す、右のうち四六万四六〇四円は前記休業補償の支払いに充当し、残額七万七三九六円は前記逸失利益の一部支払に充当する、そうすると以上損害額の合計は一七七万六三四一円となる。

(六)  弁護士費用

原告が弁護士である原告訴訟代理人に本件訴訟追行を委任したことは当裁判所に顕著な事実であり右事実と〔証拠略〕を合せ考えると原告主張通りの弁護士費用の支払を約したことが推認できる。そして本件の認容額と本件訴訟における訴訟活動に鑑み請求の三〇万円は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

五、結論

以上判示の通り被告らは原告に対し本件事故による損害賠償として二〇七万六三四一円およびうち弁護士費用を除く一七七万六三四一円に対する第一三回口頭弁論期日である昭和四五年九月二六日以降、うち弁護士費用三〇万円に対する本判決言渡の日の翌日である同四六年六月二二日以降各支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害賠償金の支払をなすべき義務がある。

よつて原告の本訴請求は、右の限度において理由があるから、これを認容し、その余の請求は失当として棄却し訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田常雄)

(1) 松永淳支払明細書

〈省略〉

(2) 松永淳支払明細書

〈省略〉

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